更新日:2023年10月30日
弛緩性便秘とは?
60代以降になりやすい
理由と対策


目次
年代を問わず、多くの人が悩んでいる便秘。実は、年齢を重ねるほど便秘に陥りやすくなるのをご存知ですか?なぜ高齢者の方は便秘がちになるのか、一般的な便秘対策に加えて意識すべきポイントや方法について、専門医監修のもと解説します。
監修:内藤 裕二 先生
(京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授)
加齢にともない便秘になる人が増加
実際、年齢を重ねると便秘を訴える人はどのくらいいるのでしょうか? 厚生労働省の「国民生活基礎調査」の便秘に関する結果をグラフにまとめました。

グラフから見てもわかるように、60代後半から便秘に悩む人が増えていることがわかります。70代前半までは女性の有訴率が高く、70代後半以降は男女共通の悩みになるようです。
排便の回数は一般的に1日に1~2回ほどですが、2~3日に1回の排便でも排便状態が普通、かつ本人が苦痛を感じていない場合、便秘ではありません。
その一方で、たとえ毎日排便があったとしても、便が硬くて量が少ない、残便感がある、排便時に苦痛を感じるなどの場合は便秘であり、何らかの対処が必要です。
便秘の原因はさまざまですが、加齢にともなって増える便秘は、大腸のぜん動運動*の低下で起きる「弛緩性便秘(しかんせいべんぴ)」と呼ばれるタイプが多いといわれています。
そもそも便は大腸のぜん動運動によって送り出され、少しずつ水分を吸収しながら直腸へと運ばれます。大腸内を糞便が通過する時間が長くなると、水分が多く吸収され、結果便が硬くなり、便秘を引き起こしてしまうのです。
高齢者の方が便秘がちになる理由について、次でもう少し詳しくお話しします。
*腸を動かす筋肉・平滑筋が収縮と弛緩を順番に繰り返すことで、内容物を移動させ、体外に排出する動き
高齢者の方が便秘になりやすい理由
体の変化
高齢者の方に多い便秘には、やはり加齢にともなう体のさまざまな機能低下が関係しています。機能の衰えの中でも、便秘との関係が強いのは、「腸の働きの低下」と「便を押し出す力の低下」です。
腸の働きの低下:弛緩性便秘(しかんせいべんぴ)など
食べ物は消化管で消化・吸収された後、最終的には大腸にたどり着きます。大腸の内容物の運搬には、筋肉が働いて大腸のぜん動運動を引き起こす必要があります。年齢を重ねると、筋力の低下やぜん動運動に関わる自律神経の乱れなどが生じやすく、便が大腸の中に留まりやすくなってしまいます。
腸の筋肉が緩んでしまい、ぜん動運動が十分に行われずに生じる便秘は弛緩性便秘(しかんせいべんぴ)ともいわれ、高齢の方ややせ型の女性、寝たきりの方などで多いとされています。

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弛緩性便秘
(しかんせいべんぴ)腸がゴムひものように
伸びきった場合など -
大腸のはたらきが低下したり、運動不足などによる腹筋力の低下などから便を押し出す力が足りないことが原因で起こります。高齢者や内臓が下垂ぎみの人に多くみられます。
便を押し出す力の低下
排便は、少しお腹に力をかけ腹圧(お腹の中の圧力)を高めることでスムーズに排便できます。ところが、この一連の動作に関わる筋力も、加齢の影響を受けて低下してしまうことが多く、便を十分に排泄できなくなってしまいます。
さらに女性は更年期による女性ホルモン分泌低下の影響も受けます。もともと女性は生理前に女性ホルモンの一種、黄体ホルモンの影響で便秘になりがちです。更年期を経て閉経すると、黄体ホルモンの直接的な影響による便秘は少なくなるでしょう。その一方で、女性ホルモンの分泌低下によって自律神経のバランスが乱れやすく、かつ、更年期はさまざまなストレスが加わりやすいため、便秘を引き起こしてしまうと考えられます。
食生活の変化
食べる量が少なすぎる

便のもとは食事です。食べる量が少なければ、便の量が減って大腸への刺激が低下してしまうため、便が大腸に留まりやすくなります。
歳を重ねるとともに食が細くなるのは、ある程度は仕方ないことかもしれません。しかし、なかには何らかの対処をすべき状態が隠れています。
例えば、運動量の減少が挙げられます。体を動かすことがおっくうになり、運動量が減ると消費エネルギーも少なくなるので、お腹が空きにくくなります。また、歯周病などのケアが不十分だったり、入れ歯が合わないことで噛む力が弱まり、食事がしにくい可能性も。
さらに高齢になると孤食(1人で食べること)の機会が増えるために、食に対する関心が低下し、食事量の減少に関係していることも考えられます。これらの問題は自分では気づいていないこともあるので、家族や周囲の方の気遣いが求められます。
食物繊維の摂取量が少ない
食事量の減少と同時に、食物繊維の摂取量も少なくなりがち。食物繊維は排便や腸内環境を整える重要な働きがあるので、不足すると便秘を招く要因になります。食物繊維は便そのものを増やすだけでなく、腸内細菌のなかでも善玉菌のエサとなり、よい腸内の環境を維持することができます。
のどの渇きを感じにくく、水分も不足しがち
加齢によってのどの渇きを感じる機能が低下してしまうため、水分摂取量の減少にともなって便の水分も減ってしまうので硬くなり、便秘がちになってしまいます。
運動量の減少
運動不足が食欲低下を介して便秘の要因になることは、先ほど解説しました。さらに運動量の低下の影響は食事量の減少だけではなく、大腸のぜん動運動の低下も招きます。そして筋肉量の減少や筋力低下も招き、動くことがおっくうになる負のスパイラルに陥る恐れも。習慣的に運動を継続している人(1回30分以上の運動を週に2回以上、1年以上続けている人)の割合は、高齢者層は3~4割程度なので注意が必要といえるでしょう。
便意を感じにくい
大腸の中で肛門に近い直腸に便が到達すると、便意を生じます。ところが高齢になると、直腸に到達した便の存在を感じ取る感覚が低下することが知られています。そのため、便が肛門の近くまで降りてきているのに、便意が生じず、直腸に便が溜まってしまうこともあるのです。この便意の低下による便秘が、意外にも多いことがわかってきました。
薬の副作用
年齢とともに病気を抱え、薬を服用する人が増えていきます。その薬の副作用で便秘が起きることも。例えば、抗コリン作用のある薬(せき止めや、頻尿、ぜん息、うつ病などに使われる薬の一部)では、便秘が起こりがちです。高血圧や胃薬、鉄剤などにも便秘の副作用があるものがあります。自分が服用している薬の副作用を事前に確認・理解し、状況に応じて医師や薬剤師に相談しましょう。薬が変わってから便秘がちになった場合には、薬による副作用のことが多いとされています。
高齢期に意識したい日常の便秘予防・対策
まずは食事や生活習慣の見直しから行いましょう。
ここでは便秘解消に役立つ日常生活でできる工夫を解説します。
食べ物の工夫

腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整えることが便秘予防・対策の鍵です。そのために、酪酸菌や乳酸菌などの善玉菌そのものを含む食品、善玉菌のエサとなる食物繊維などを、バランスよく摂取しましょう。キウイやバナナの入ったフルーツヨーグルト、にんじんや大根などの野菜がたっぷりのみそ汁は、善玉菌と食物繊維の両方を摂取できるのでおすすめです。
また、脂質を適度に摂ることも大切。脂質に含まれる脂肪酸が大腸を刺激してくれます。
食べ方の工夫
まずは朝食をしっかり食べましょう。大腸のぜん動運動が刺激され、便通につながります。
日々の食事量を減らさないことも大切です。食が進まない時は1日3回という回数にこだわらず、食べられる時に食べられる量を、少しずつ食べると良いでしょう。
また、高齢になると人との交流機会が減り、孤食になりがち。孤食は食欲低下の要因になるので、誰かと一緒に食事をするなど、食事を楽しむことを心がけましょう。
※会食時は新型コロナウイルス感染症の感染対策をしっかり行いましょう。
水分摂取の工夫
加齢にともない喉の渇きを感じにくくなってきますので、こまめに水分を摂りましょう。水分摂取は、脱水予防に大切なだけでなく、便の柔らかさを保つためにも大切です。
便秘対策としては、起床時に冷水や冷たい牛乳を飲むと、腸が刺激されて排便を促す効果を期待できます。
生活習慣の工夫
便意がなくても毎日決まった時間にトイレに行く習慣を続けてみてください。徐々に排便のリズムが整い、便秘の解消が期待できます。おすすめは朝食後です。もちろん、毎回便が出るとは限りませんが気負わずに続けてみましょう。
また、便秘予防には腹式呼吸が良いといわれます。腹筋や横隔膜を刺激することで腹圧が高まり便意が起こりやすく、排便時にスムーズに便を送り出す効果が期待できます。
運動やマッサージの工夫

適度な運動で全身に刺激を与えることが、大腸のぜん動運動の促進につながります。手軽に始められるウォーキングやラジオ体操などがおすすめです。また、腰をひねる運動は、便を排泄するためのインナーマッスル(腸腰筋)を鍛えてくれます。
このほかに、お腹をマッサージすることでも、便秘改善が期待できます。
高齢期は生活習慣の見直しに加え、
便秘薬の力も借りてみよう!
年齢からくる弛緩性便秘(しかんせいべんぴ)
自然に近いお通じが得られる漢方処方の便秘薬がおすすめ
薬局やドラッグストアには、市販の便秘薬がたくさん並んでいます。大きく分けると、腸の運動を促進するタイプと便を柔らかくするタイプがありますが、どう選べばいいのか悩んでしまう人も少なくないはず。
冒頭で述べたように、加齢にともなって増える便秘は大腸のぜん動運動の低下で起きる「弛緩性便秘」が多いといわれているので、大腸をしっかり動かし、自然に近いお通じが得られる漢方薬から試してみてはいかがでしょうか。
漢方処方の便秘薬の中で最も一般的なのが「大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)」です。

大黄甘草湯は、その名の通り、大黄と甘草という二つの生薬で構成されています。大黄は主に大腸の動き(ぜん動運動)を活発にし、甘草は便意にともなって生じる痛みを緩和するように働くので、高齢期の便秘に適しているといえるでしょう。市販の大黄甘草湯は、錠剤と顆粒の2種類がありますが、錠剤では便秘の具合を見ながら服用錠数を調節しましょう。半錠ずつ調節できるよう、錠剤に割線(かっせん)が入っている製品もあります。最初は少量で開始し、症状の改善度を確認しながら用量を増やす、という調節も可能なので、薬の服用と自身の便通の状態をチェックしながら、服用してみましょう。
なお、毎日連続して服用し続けると、薬の刺激に体が慣れ、効きにくくなってきてしまうため、便秘のつらい時に服用し、症状がある程度改善したら服用を止め、間隔を空けるようにしましょう。
便秘薬を上手に活用して、便秘の悩みに対処したいですね。
参考
- 厚生労働省「国民生活基礎調査」,2019年(令和元年)調査(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/index.html)
- 慢性便秘症診療ガイドライン2017
- 日本臨床内科医会(https://www.japha.jp)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
- 平塚卓:診断と治療 89(8):1293-1297,2001.
- 森 紘子ら:Gノート 4(4):761-768, 2017.
- 三澤 昇ら:消化器・肝臓内科6(5):科学評論社(2019)
- 神山剛一ら:Medical Rehabilitation 233:全日本病院出版会(2019)
- Yurie Mikami,et al.:Nutrients 14(2):337,2022.
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